Go To 北海道3日目。北海道の政治経済の中心を出発した僕は、150kmかけて美瑛に行き、自然が創り出す美しい色に圧倒された。その後、僕は80kmかけて日本最大の国立公園である大雪山へとタンクを走らせた。4日目は、大雪山にある層雲峡が創り出す美しい景観に圧倒されながら、100km以上先にある十勝へ山を下っていった。
美瑛ブルーと美瑛レインボー
北海道の奥地にある青い水
僕はミスチルを聞きながら道央自動車道、道道116号線、国道452号線、道道135号線を走った。札幌周辺では建物が林立していたが、東へ行くほどに文字通り木々が林立してきた。しかしどちらも日本の都会と田舎で見られる風景だった。
道道135号線を走りきるとようやく富良野だった。ここは今まで僕が見てきた風景とは違った。道はひたすらまっすぐで、左右には農業地帯が広がり、地平線を見渡せた。ここは日本というより、アメリカの田園地帯のようだった。エバーグレーズ国立公園に行った時のような場所だった。
富良野から道道353号線を進んでいくと、青い池という看板がようやく見えてきた。しかし僕はそこを通過して白ひげの滝へ来た。札幌から150kmの旅だった。ミスチルも「Cross Road」「innocent world」「Tomorrow never knows」「シーソーゲーム」など沢山の曲が流れた。
相変わらず観光地には車も人もいっぱいいた。白ひげの滝は十勝岳の伏流水が断崖から湧き出している落差30mの滝であり、その水が美瑛川に注ぎ込むことでコバルトブルーの水を生んでいる。
僕は白ひげの滝を後にして、白樺が両脇に整列した道道966号を走り、白金青い池に到着した。この池は美瑛川の砂防工事中に生まれ、その青さは「ビエイブルー」とも呼ばれている。白ひげの滝などから美瑛川にアルミニウムを含んだ水が混ざることでコロイドが生成される。太陽光が水中のコロイド粒子と衝突し、波長の短い青い光が散乱されるため、青く見えると言われているそうだ。
シャコタンブルーは海に油彩画の絵の具を滴らせた青であったが(自然の青というイメージ)、こちらのビエイブルーは池に水彩画の絵の具をかき混ぜた青という感じだ(人口の青というイメージ)。無論、どちらも美しい。
南のパノラマロード
美瑛駅の近くには、南には「パノラマロード」、北には「パッチワークの路」があり、どちらも観光名所になっている。青い池から美瑛に入った僕は、南から攻めた。
午前中に札幌を巡り、150km走り、白金を見学してきたので、時刻はすでに昼過ぎだった。僕は昼食を抜くことにして、行くところを絞った。まずは「四季彩の丘」だ。ここは整備された有料の花畑であり、有料の分、管理が行き届いた絶景を堪能できた。
訪れた時期も最適だったようで、マリーゴールド、白妙菊、百日草、コスモスなどが咲き渡っていた。しかしながら、茨城のひたちなかで向日葵に縁がなかったように、こちらでも向日葵には縁がなかった。
次に、僕は「千代田の丘」に向かった。しかしその周辺に行っても牧場があるだけでどこに千代田の丘があるのか分からなかった。貴重な時間を消耗するわけにはいかないので、「赤い屋根の家」へと向かった。ここは私有地のため、観光整備がされておらず、カーナビやグーグルマップの二刀流でも辿り着くのが困難だった。
北のパッチワークの路
僕は赤い屋根の家を離れ、パッチワークの路へ急行した。途中美瑛駅を通り過ぎ、町のガソリンスタンドで給油した。北の大地では常にガソリンを満タンにしておかねばならないのだ。最寄りのガソリンスタンドが何十キロ先ということも有り得るから。
パッチワークの路でまず出会ったのがケンとメリーの木だった。それは1972年に日産自動車のスカイラインのCMで取り上げられたポプラの木である。ケンとメリーとはそのCMに出演していた役者の名前だそうだ。
調べてみると、CM「ケンとメリーのスカイライン」第15作目「地図のない旅」編で取り上げられたそうだ。1976年の9月制作。
続いても広告で使用されたロケ地である。通称「セブンスターの木」と呼ばれ、その名の通り、タバコのセブンスターのパッケージに使用された。
しかし、セブンスターの木はあいにくの逆光。だからか、その隣の並木の方が綺麗だった。
陽が傾いてきたので、僕はここで美瑛観光を中断した。この日は後80km走って、層雲峡にあるホテルまで行かなければならなかったからだ。真っ暗な山道なんて怖くて走れないだろう?ただでさえ鹿や羆が出るかもしれないのに。
北海道の屋根
層雲峡で鹿とアイヌ料理を食べる
美瑛から国道や道道を経由し、旭川紋別自動車道に乗る。北海道は都市部を除いて、道路に電灯などない。タンクのヘッドライトを頼りに薄暗くなった道路を時速100kmで走る。上川層雲峡ICで降りてからは、国道39号へ。上り坂が続き、道は森の中へと分け入っていく。まるで人間世界から野生の世界へ足を踏み入れた不気味さがあった。ミスチルの音楽と車の走行音だけが聞こえていた。
国道39号線をしばらく進むと、にわかにセブンイレブンが現れた。すると次々にホテルが出現し、石狩川を渡った先にホテル大雪があった。僕は黒いタンクからオレンジのスーツケースを取り出し、ホテルに入った。入口では謎のおじいちゃんとおばあちゃんが出迎えてくれた。銀河の滝と流星の滝のマスコットキャラだろうか?
和室に泊まったのは久しぶりだ。荷物をよっこいしょと下ろし、畳に寝そべる。だめだこのまま寝てしまいそうだ。
気付いたら夕食の受付終了ギリギリの時間だった。今宵もビニール手袋をはめ、マスクを着用して料理をよそった。小龍包や刺身なども勿論美味しかったが、エゾシカ肉のスモークが格別だった。まさかエゾシカの実物を見るより食べる方が先とは思わなかったが。また、アイヌ料理を味わうこともできた。「ルイベ漬けシト」という料理なのだが、言い換えれば鮭が乗った芋餅の醤油漬けだ。
お風呂の時間だったが、真っ暗になった露天風呂に入っても面白味がない。そこは明日の朝にとっておくことにし、フロントの近くにある欧州風の大浴場に入った。風呂上りは売店で更科源蔵のアイヌ伝説集を抜粋した書物を買い、モンハンのマイハウスのような、いかにも北海道という感じのロビーでパラパラめくりながらくつろいだ。
伝説の中には、今までに行った登別や洞爺湖に関するもの、また神威岬とは別の積丹半島における義経伝説、僕が現在いる層雲峡にまつわる話、そしてこれから行く釧路、阿寒湖、知床の伝説もあった。
北海道の屋根に立つ
翌朝、朝食を済ます前に露天風呂に入った。僕以外誰も入っておらず、層雲峡の朝は小鳥の囀りが聞こえそうなほど静かだった。
朝食は目玉焼きやスクランブルエッグとった洋食、シュウマイなどの中華、海鮮丼などの和食が揃ったバイキングだった。この季節は鮭が遡上してくるので、どこに行っても鮭料理や生のサーモンがあった。
僕はホテル大雪の近くにある黒岳ロープウェイに搭乗した。何だか北海道に来てからロープウェイばかり乗っている気がした。洞爺湖に札幌に層雲峡。ロープウェイは標高670mから1300mまで一気に上がっていく。黒岳はこの時期にも関わらず少し紅葉に色付いていた。係員の話を聞くところによると、大雪山は日本で最も早く紅葉が始まるそうだ。紅葉はここから始まり、徐々に南下していくと。
大雪山を下って下って
いよいよ、本日の旅が始まった。この日は十勝を経由して釧路までいく予定だ。まずはホテル大雪から大雪山をゆっくりと下りていき、十勝牧場まで100km超を走る。その間、大雪山の観光名所を回る予定だ。
国道39号線を少し進むと、日本の滝100選にも選ばれている銀河の滝と流星の滝に、お目にかかれた。銀河の滝は120mの断崖から糸のようにシトシトと流れる滝で、その様子から女滝とも言われている。流星の滝は90mの断崖から豪快に水が落ちる滝で、男滝とも言われている。
この2つの滝は夫婦滝とも呼ばれており、少し登った双瀑台からはこれら両方を一緒に眺めることができる。僕は多数の蜻蛉が飛び交う中(蜂じゃなくて本当に良かった)、苔むした小径を登り、双瀑台に辿り着いた。
旅は急ぐ。銀河トンネルを抜けると道路工事をしていた。北海道は常に道路を工事している。洞爺湖の方でもあったし、美瑛の方でもあった。道路工事の現場を抜けると大函に到着した。
3万年前、大雪山の中央火山が大噴火し、この辺り一帯は火砕流などの堆積物で覆われた。その堆積物は、冷え固まる過程で体積を収縮させ、四角形や六方称形となった。これは柱状節理という現象で、地質学的には溶結凝灰岩と呼ばれる。その後、石狩川が1万年以上かけて堆積物を浸食し、大函が出来上がった。
帯広まで100何キロという標識のある交差点を右折し、国道273号に入った。大雪ダムの上を通過し、大雪湖の周囲をグルッと周る。それからしばらく大雪山を下っていくと、三国峠に着いた。もはやあたり一帯は層雲峡のような中国の山岳部のような景色ではなく、日本の樹海という雰囲気だった。
ここは北海道の国道では最も標高の高い1139mの地点で、そこから見下ろす大樹海は約100万年前の大噴火で形成されたカルデラ。そこには針葉樹と広葉樹の混交林が広がっている。三国峠から少し歩いたところにある橋からは、松見大橋と三国峠をセットで見ることができる。それは地上の世界とは隔絶された天空の橋のようだった。
松見大橋の上を黒いタンクが走り、国道273号線をさらに南下していくと、音更川に合流する。そのまま音更川沿いに南へ南へ進むと糠平湖に出る。ここには旧士幌線旧線のタウシュベツ川橋梁があるのだ。僕は駐車場にタンクを止め、ヒグマ注意の看板を横目に林へと入って行った。湿気た林の中というのはどこか不気味なものだ。苔が生えていたり、虫が飛び交っていたり、土が柔らかかったり、人間が主人ではない世界にお邪魔した気分になる。
この日は音更川の水量がとりわけ少なかったようで、橋は水の上に架かるというより土の上に架かっていた。例年、6月頃から橋は沈み始め、10月頃には完全に見えなくなるようだが、2020/9/9は完全に見えていたので幸運だったのかもしれない。
タウシュベツ川橋梁は旧国鉄士幌線の一部として1937年に建設されたが、1955年、糠平ダムの完成に伴って新しい線路が敷かれ、使用されなくなった。今では糠平湖の水位の変動により見え隠れする幻の橋として、ツーリング客を楽しませているようだ。
だだっ広い十勝
国道273号線を行き止まりまで進むと、上士幌町の中心部へと出る。それから道道337号線をひたすら真っ直ぐ進むと、ようやく十勝牧場に辿り着く。RPGゲームでダンジョンを越え、次の町にHPギリギリで辿り着いた感じだ。車内で流れていたミスチルも「名もなき詩」「花」「終わりなき旅」「口笛」など途切れなく歌い続け、HPギリギリなことだろう。
十勝牧場の白樺並木は、今回の旅行で行ったどの白樺並木よりも綺麗だった。僕が写真を撮っていると、彼方から普通車が砂煙をあげながら走ってくる。何だか自然の中を車が走っているみたいで趣があった。
僕も車で白樺並木を走ってみる。グラグラと車体が揺れ、砂埃を背後に撒き散らし、黒いタンクは砂で汚れてしまった。僕はそのまま十勝牧場内を走り、展望台へとやってきた。
そこには誰もいなかった。誰もいないどころか牛も見当たらなかった。一体ここはどこなのだろうと混乱した。
十勝牧場から十勝川温泉へと向かう道すがら、とても遅いトラックに遭遇した。十勝の道は相変わらず地平線の果てまで真っ直ぐだったので追い越したが、そのトラックの荷台には牛が乗っていた。もしかしたら、さっきまで十勝牧場にいた牛たちなのかもしれない。
さて、「道の駅ガーデンスパ十勝川温泉」に到着したが、この日は夕日を釧路湿原で見なくてはならなかった。ゆっくりする時間はなかった。僕は世界でも数箇所しかないという植物性の「モール温泉」を次回来た際にとっておき、昼食代わりに十勝のソフトクリームを食べ(美味しかった)、150km弱先にある釧路湿原の細岡展望台へと車を進めた。(756の旅行記12へ続く)
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次回旅行記は続編
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